ビジネス思考な農家の土づくりは「野菜の生命力を引き出す栽培法」だった

Shoko Ito Shoko Ito

2021年春。暖かくなり、草花や虫が目覚めて生命力あふれる季節がやってきました。

ゆめのたねファームの畑も、いよいよ新シーズンの開幕です。

これから迎えるシーズンに向け、土づくりに新しい試みがあると聞きつけて畑へ取材してきました。

個人で、かつ広大な面積で農業を営むためには効率やコスパを考えた方法で製品率を上げることが必要不可欠です。 コスパを考えて大規模農業をすると聞くと、農薬や化学肥料を大量に使用して…とイメージしてしまいますが、高木さんの取る方法は「野菜や畑の声を聞き、野菜そのものの生命力を引き出す栽培法」。

今シーズンの土づくりにはどんな新しい取り組みが? その模様をお届けします。

           

ゆめのたねファームの土づくりに新しい取り組み

 取材写真
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実は昨シーズン、高木さんの主力作物であるトウモロコシは長引いた梅雨や虫による被害を受け、カリフラワーは広範囲が病気にかかってしまったんです。

10000坪もの広大な畑を個人で管理する高木さんにとっては大きな大きな打撃でした。

自然環境に左右されてしまうのが農業。だからといって単に諦めるのではなく、「何かできることは?」と策を講じるのが高木さんです。

効率やコスパを考えながら、その時畑のためにできること…その考えのベースにあるのが、「野菜の生命力を引き出す栽培法」。

野菜の生命力を信じ、さらにその生命力を引き出し、野菜自身に丈夫な体作りをしてもらう。

そのサポートをしていこう、というのが高木さんの栽培法なんです。

お話を伺っていくと、2つのキーワードが浮かんできました。

           
効率やコスパを考えた時、「生命力を引き出す」ことは相反すると思ってしまいがちですが…実はイコールなんですね。
             

土壌環境を健康かつ豊かに。

 取材写真
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写真左:廃菌床。とても軽く、木のチップのようです。

写真右:米糠ボカシ。ふんわりと米糠の甘い香り。ふかふかして気持ちいいです。

 

まず、「土壌環境を健康かつ豊かに」。

これまで、ゆめのたねファームの畑の主な肥料源は鶏糞と緑肥でした。

どちらも美味しい野菜作りには不可欠で有効な肥料ではあったのですが、昨シーズンの教訓から特に繊維質が不足しているとの判断をし、土づくりに新しい取り組みを行うことに。

廃菌床と米糠ボカシを畑の肥料として追加するというものです。

廃菌床:畑近くのきのこ栽培を行う会社が廃棄に困っていた、きのこ栽培後の菌床。木くずが主な原料で、繊維と良質な菌が豊富。

米糠ボカシ:近くの勤労支援施設にて作ってもらっているもの。栄養豊富な発酵肥料で、野菜を優しく元気にしてくれます。

これによって栄養補給はもちろん、繊維や菌類が加わることで保水力の向上や豊かな微生物環境を作り出すことができるといいます。

「腸内環境と同じだね」

そんなふうに高木さんはおっしゃっていました。健康な体作りは栄養バランスのとれた食事と、腸内環境を健康に保つことが大切。野菜作りをする土壌環境も全く同じなんだなと感じた瞬間でした。

 

また、肥料のベースは「有機肥料」。従来から使用している鶏糞も含め、自分の五感で確かめた納得のいく良質な肥料を選び抜いて使用していて、有機栽培を意識しているというよりは「その時できることを、できる範囲で行う」というのが高木さんのモットー。化学肥料に比べて効き目は緩やか、そして野菜自身が自ら栄養を吸収しようと根を伸ばしてくれる有機肥料。

野菜の丈夫な体作りに繋がり、結果的に味良く、見た目も良く、製品率も向上するということから、結果的に有機肥料がベースとなっているそうです。

 

           
管理栄養士でもある私に「土も腸内環境と同じ」と説明してくださり、それまで土づくりの知識がなく難しいお話だと感じていた私でも「なるほど!」と一瞬で理解できました。さすが高木さん、わかりやすいです。
               

適地適作。気づきからのひらめき!

 取材写真
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水はけの悪い部分(写真左)と水はけの良い部分(写真右)。

同じ一枚の畑でもこれほど違いがあります。

 

そして2つ目のキーワードが「適地適作」。

一枚の畑の中でも、水はけの良いところ・悪いところ、肥えている場所・痩せている場所があると気づいた高木さん。

畑を歩かせてもらうと、確かにトラクターの通った溝が深い場所、浅い場所とあり、目で見てもわかるほどでした。

この気づきから一枚の畑に一種の野菜のみと決めつけず、野菜の特性と畑の特性をマッチングさせた配置を思いつき、今シーズンは計画しているそうなのです。

一つの畑に、二種類の作物を植える計画…!

(高木さんのような広い面積の畑を持っている場合、1枚の畑に1種類の野菜を栽培するのが一般的。)

個人農家だからこそできること。固定作物しか作らない大規模農家なら、きっと水はけの悪い場所でも湿気に弱い作物を仕方なく植えることになってしまうでしょう。

固定概念に縛られず柔軟に判断して改善していこうとする姿勢に感銘を受ける反面、個人農家ゆえのリスクも大きい中での決断力も必要なんだと感じました。

           
「いかに効率よく、ロスを抑えられるか。これが考えのベースなんだよ。」と仰っていましたが、野菜と畑のことをよく知っているからこそのひらめきでもあるんですよね。
               

高木さんの農業とは…

 取材写真
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これまで、約1年間にわたって高木さんの農業を取材してきました。

畑でお話を伺っていると、高木さんは意外と収益面のお話をされるんです。

これまで農家さんに「お金」のイメージがなかった私。

でも、広い畑を一人で管理し、農家としての生業を継続させていくために、効率やコスパを考えることは必要不可欠。それはビジネスを継続していく起業家の思考と同じなんですよね。

効率やコスパを考えると、なんだか冷たいイメージがありますが…高木さんの農業は違います。

効率やコスパを考えたうえで質の良いものを製品率高く出荷するために高木さんの取る方法は、決して化学肥料や農薬ばかりに頼るのではなく、野菜や畑の声を聞き、その時々に質の良い栄養分を与え、まるでわが子を育てるかのような「温かい心」で育てていく栽培法なのです。

     
取材先情報
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高木宏道
オンラインショップ
・イオン(豊田店) ・JA産直(あいち豊田グリーンセンター松平店、三好店、畝部店)